概説
離島における肉用牛産業の展開を読み解く
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大阪大学教授 大呂 興平
和牛の母牛を飼育し、その母牛が産んだ子牛を販売する「肉用牛繁殖」と呼ばれる農業部門は日本の離島における農業生産額の中で最大のシェアを占めており、離島の第一次産業の中でも例外的に成長している。肉用牛繁殖は最も土地使用的な農業であり、土地が余りがちな離島において立地の合理性がある。また子牛は生鮮品ほど定時出荷や鮮度管理が厳しく問われないため、流通上の不利性が小さい。本稿では、これら大局的な理解に留まらず、離島ごとの地域差を概観し、地理学的な視点から離島の肉用牛産業について説明を試みる。
事例報告
大型和牛繁殖支援施設による持続可能な畜産の実現
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佐渡農業協同組合営農振興課 寺田 令
佐渡島は古くから繁殖を主体とする黒毛和牛の優良な子牛の生産地として知られる一方、少子高齢化や後継者不足のため飼養戸数は減少している。この状況を鑑み、2017年にJA佐渡を主体とする「世界農業遺産の島〝佐渡〟畜産推進協議会」が設立。地域ぐるみで高収益型の畜産を実現するための体制「畜産クラスター事業」に取り組んだり、繁殖基盤強化を目的とした大型和牛繁殖支援施設「CBS(Cattle Breeding Station)」を建設している。本稿ではCBSの取り組み現況や今後の展望について紹介する。
島の酪農文化の継承と高品質な乳製品の提供を目指して
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八丈島乳業株式会社代表取締役 歌川 真哉
八丈島で本格的な酪農が始まったのは、明治時代の中頃であった。昭和14年には島内でバターや練乳の生産が始まり「八丈島酪農の黄金期」を迎えたものの、本土から品質の安定した安価な牛乳が届くようになると、島の酪農は次第に縮小していった。筆者は島の酪農存続に向け、平成26年に八丈島乳業株式会社を設立。八丈の自然を活かした酪農に取り組んでいる。本稿では、「八丈島ジャージーカフェ」など乳製品の島内外展開や、マグサなど島で育つ草を使った伝統的な酪農の実践について紹介する。
子牛生産地としての基盤強化と「壱岐牛」のブランド化
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長崎県壱岐市農林課 飯田 雅浩
鎌倉時代の図説でも壱岐産の牛は姿が良いと紹介されるなど、島の和牛の歴史は古い。現在、肉用牛の繁殖経営は、島内の農業算出額全体の七割を占める基幹作目だ。一方、飼料価格の急激な高騰、子牛価格の低迷など、畜産農家にとって苦しい状況が続いている。壱岐市では畜産農家の仕事を一時的に代行するヘルパー組織や農家の労力支援システムの構築、管理作業軽減のための外部管理施設を整備し、子牛生産地としての生産基盤の強化を図っている。加えて、「壱岐牛」ブランド化や農畜連携の取り組みを紹介する。
「周年放牧体系」の強みを生かす畜産振興
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鹿児島県十島村産業振興室 永田 勇樹
十島村では、広大な原野を利用した「周年放牧体系」で育成牛の生産を行なっており、令和6年度の出荷頭数は450頭、売上額は約2億円となっている。村では、畜産業を地域の重要な基幹産業に位置づけ、子牛や飼料の運賃を補助する「海上輸送運賃補助」、天災被害からの復旧を図る「生産施設整備補助」、優良な繁殖雌牛を導入・預託しやすい環境を整備する「十島村畜産振興繁殖雌牛預託事業」などの、支援策を実施している。また、「十島村新規就業者支援制度」など、島外向けの新規就農者の確保・育成に向けた取り組みを紹介する。